新型コロナウイルスの「5類」移行に伴う感染防止対策として政府が10日に示した指針では、乗客の全員が着席できる新幹線や高速バスなどでマスクを外すことが容認された一方、混雑した電車やバスでは着用を推奨した。専門家は「マスクを着用せず車内で会話する乗客とマスクを着用している人との間で軋轢(あつれき)が生じる恐れもある」とトラブルを懸念。新しい〝習慣〟が浸透するまでには紆余(うよ)曲折も予想される。
「一時は車内や駅での注意喚起の放送を頻繁にしていたが、回数を減らしている」。JR東日本の深沢祐二社長は7日に行われた定例会見でこう述べ、感染対策を少しずつ見直していく意向を示した。東急電鉄もすでに「世の中の状況をかんがみ、マスク着用を求めるアナウンスは行っていない」(担当者)という。
通勤ラッシュ時の混雑した電車では従来通りマスクの着用が推奨されるが、政府の指針は、マスクなしを容認する例として追加料金制の着席列車「通勤ライナー」を挙げた。指針に合わせると、同じ路線でも、列車によってはラッシュ時にマスクを着用せず通勤・通学ができることになる。
鉄道評論家の川島令三氏は「トラブルを避けるためにも、マスク着用が求められていない列車では、そのことを車内アナウンスで伝えるべきだ」と指摘。繁忙期で混雑する特急列車の自由席では着用を求めるなど運用の在り方について鉄道各社で検討すべきとした。
航空機では乗客のマスク着用拒否を契機としたトラブルが発生し、刑事事件にも発展した。国土交通省によると、電車やバス以外の公共交通機関はマスク着用推奨の対象外で、航空機もマスクなしが容認された。
国内の航空会社19社が加盟する定期航空協会は6日、機内での着用について個人の判断に委ねる方針を明らかにした。協会の担当者は「平時に向かっていくことを望んでいた」と指針見直しを歓迎。航空・旅行アナリストの鳥海高太朗氏も「国が着用しなくていいとお墨付きを与えた意味は大きく、訪日外国人観光客も増える」と強調する。
今後の検討課題として挙げられるのが、乗務員らのマスク着用だ。鳥海氏は「マスクをしないことに不安を覚える乗客がいる間は、接客にあたる客室乗務員はマスクを着用し続けるのではないか」とみる。
政府の指針は、着用を個人の判断に委ね、本人の意思に反して着脱を強いることがないよう、各業界団体に業種別ガイドラインの見直しを求めている。これまでマスクの着用や入店時の消毒の徹底などの感染防止対策を進めてきた小売業界は「情報収集し、検討中」(日本小売業協会)の段階だ。
百貨店大手のそごう・西武は「多くの方が来店し化粧品や洋服など距離の近い接客販売がある」(広報担当者)という百貨店の特徴を考慮しつつ対応していく方針だ。コンビニエンスストア大手のローソンも「社会やお客さまの声を踏まえ、検討していく」(担当者)としている。(大竹直樹、深津響)




